クロノメーターとは何か?(解説 浅岡肇)

時代を遡ること300年前、1714年にイギリス議会で「経度法」が制定されました。当時、海難事故が多発しており、「経度法」は航海中の船舶の位置を正確に測定する方法を開発した者に懸賞金を与えるものでした。船舶の正確な位置を知るには、経度の精密測定が必要で、これを実現するためには日差数秒以内の精度を持つ時計が求められました。こうした経度測定用の時計を「クロノメーター」と呼びました。

ジョン・ハリソン
ジョン・ハリソン

波に揺られ、気温の変化も激しい海上で、この精度を機械式で実現することは、現在の技術をもってしても非常に困難でした。しかし、イギリスの時計師ジョン・ハリソンが開発したクロノメーターは、この要求を初めて満たすものでした。その初号機「H1」は1735年に開発されました。

現在のクロノメーター規格は、この「経度法」に起源を持ち、現在ではそのスペックを満たした時計に「クロノメーター」の称号が与えられます。 「クロノメーター」は姿勢や温度の変化に対しても殆ど影響の無いように調整されていますが、これは航海における厳しい環境に耐え、正確な位置を知るための必要条件だったというわけです。

では、クロノメーターの精度はどのように検証されていたのでしょうか。クォーツ時計やより正確な原子時計が登場する以前、正確な時間の計測は夜空の恒星の動きを観察することによって行われていました。これを担っていたのが天文台です。天文台は一般的に星を観察する機関とされていますが、その本来の目的は時間の計測でした。ちなみに、ジョン・ハリソンのクロノメーターを検査したのはイギリスのグリニッジ天文台です。
このように、時計の開発は航海と密接に関係があり、特にイギリスやフランスが正確な時計、すなわちクロノメーター開発をリードしました。その検査機関の一つが現在、タカノの検定を行っているフランスのブザンソン天文台です。

ブザンソン天文台
ブザンソン天文台
時間計測用の天体望遠鏡「子午儀」
時間計測用の天体望遠鏡「子午儀」

東京時計精密における
クロノメーターの調整(解説 浅岡肇)

機械式時計の精度を水平に置かれた状態の精度を保つことは比較的容易ですが、時計の姿勢が変わった場合、すなわち、縦向きにした文字盤の方向の如何に関わらず精度を維持することは非常に難しくなります。そのためには振り子であるテンプを個々で調整する必要があります。

テンプを外し部分的に僅かに削ることで姿勢差を最小に調整する
テンプを外し部分的に僅かに削ることで姿勢差を最小に調整する
テンプを外し部分的に僅かに削ることで
姿勢差を最小に調整する
テンプのバランスを見る「片重り見」
テンプのバランスを見る「片重り見」

調整された時計は弊社内でクロノメーター基準に基づくテストを受けます。画像は歩度計測器ですが、その際の室温もクロノメーターの計測基準に合わせています。なお、高温テストは専用の庫内で行われます。

クロノメーター基準に基づくテストを受ける歩度計測器

調整の完了した時計は、防磁対策された専用の搬送ケースに入れられ、ブザンソンに送られます。

防磁対策された専用の搬送ケース

ブザンソンのリファレンスクロックは現在では原子時計です。画像のような恒温室で厳重に管理されています。ちなみに、1967年に国際的に時間の基準が原子時計に変更されるまでは、子午儀が使われていました。

防磁対策された専用の搬送ケース

計測は原子時計をマスターとして、パソコンのソフトウエアが文字盤の映像を解析することで行われます。

防磁対策された専用の搬送ケース
防磁対策された専用の搬送ケース

タカノシャトーヌーベルの第一回目のクロノメーター合格率はわずか3割程度でしたが、最近ではその合格率が徐々に上昇しています。今後も厳しいテストに合格したタカノシャトーヌーベルを皆さまのお手元にお届けできるよう、2025年のタカノにご期待ください。